Q&A

Q(MS-299) これまで活動性が低い場合、将来の障害進行の可能性は?HK   2019.8.22-22:14
36歳、男性、大阪府在住。

初回から2回目の増悪(初回再発)まで、無治療で13年間エピソードが無かった。
現在は、初回の再発から3年で、新たな病巣が出ていないことから、活動性が低いMSと認識しております。
今後も疾患修飾薬を服用し続ければ進行せず、変わらず日常を過ごせると思っておりますが、先生の今までのご経験からのご意見をお聞かせ願えないでしょうか。
先生の患者ではなく、MR画像も無いため、一般論としてご意見をお聞かせください。

病歴:
2003年発病、セカンドエピソード 2016年。
現在の症状: 左手の皮膚感覚異常、歩行障害なし。
治療: 2016年、 3年前から1年間イムセラ、
2018年、 2年前から現在までテクフィデラを服用。
抗アクアポリン4抗体:陰性。脊髄に3椎体以上の長さの病巣:無し。 
脳MRIでの病巣:8個程度、それぞれが非常に小さい。Dawson's finger 様であり、MS的。

初発から16年経過し、臨床再発は3年前に1度のみで、現在、軽度の感覚異常が残っているのみ。
脳MRI病巣は8個、典型的だが、小型のみ。
今後の再発や障害進行の見込みはどうか、とのご質問です。

平均的MSの方に比べて、再発の回数が少なく、現在の障害度も低く、これまでは軽症のMSであることは間違いありません。一般論として、そうした方は今後も再発や障害進行のリスクが低いと予測可能です。しかし、その確実性はそれほど高くありません。

経過16年で再発は1回のみ、現在の障害は軽度の感覚異常のみであれば、あまり利用されない名称ですが「良性MS」と分類することもあります。そうした方の、その後の障害進行について調べた北アイルランドでの「良性MS(benign multiple sclerosis)」の長期予後の研究が参考になります。20世紀末までで、ほとんどの期間は無治療であった時代の研究です。初発から15年後の障害度が低かった多数のMS患者を「良性MS」と定義し追跡をしました。そうした方々が、その後の15年間も軽症であったのは約40%で、60%の方は中等以上の障害への進行があったとの結果でした。15年間経過が良かったから必ず次の15年も良いとは言えないとの結論です。
カナダでの多数MSの調査で、25年経過すれば50%の方が車椅子生活となっていた、との結果に比べれば、平均はましであるとは言えます。

男性であることは、進行型へ移行しやすい因子です。
最も重要なのは、有効性の高い治療をしっかりと継続することです。
有効性の序列はタイサブリ、フィンゴリモド(ジレニア、イムセラ)、テクフィデラの順です。自己注射薬は効果が低いです。医師が一定の注意を払えば、安全性の担保は十分に可能です。

予測するために追加で欲しい情報:
16年間のMRI撮影の頻度、その間の変化、造影病巣の有無。T1-black holeと脳萎縮の程度。
髄液オリゴクローナルバンドが陽性か陰性か。
喫煙歴、肥満の有無。
イムセラ、テクフィデラは規定量を服用したかどうか。イムセラを止めた理由は何か。