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医療講座

便秘と多発性硬化症     

         斎田 恭子  神経内科医師

(1) 便秘について
排便というのは、原則でいえば、丁度良い固さ(軟らかさ)の便が、毎日決まった時間に、スムースにでることである。このどれかで障害があると便秘になる。排便の頻度は人によって違い、2日、3日に一度という人もあるが、3日以上間が空く(週3回未満)と体に何らかの変調がくる。お腹が張る、痛い、食欲が落ちる、だるい、皮膚があれる、イライラ、不眠などである。便秘は色々なタイプの痔と痔出血の原因となる。長く続くと、やがては大腸癌の頻度が増える。便が腸に詰まってしまう腸閉塞にもなる。

便秘と排便障害とは別である。強い便秘の場合、便秘だと軽く考えて、大腸癌、腸重責や腸の神経麻痺等の原因を見逃してはいけない。  便秘の人は、10~50歳代でみると、女性(4%)は男性(1%)に比べて3~6倍多い。これは女性ホルモンが関係している。女性ホルモンが多く分泌される妊娠中はさらに便秘は強くなる。高齢になると、腸の動き(蠕動運動)が悪くなり、排便する力(骨盤底筋や腹筋の筋力)が落ちて便秘は増える。  野菜等の繊維を食べる量が少ないと便中での水分保持力が少なくなり、また野菜に含まれる食物内の毒物を吸着する力が減り、善良な腸内細菌の発育が悪くなり、悪い菌が増え、腸内ガスが増えて、腸の動きが悪くなり、さらに便秘になる。単に食べる量が少ない、飲む水分が少なくても腸内を運ばれる物質が少く、便も硬くなり便秘になる(いわゆる小さいころころした兎便)。  体の運動量が少ない(長時間の座位の仕事や動きの少ない生活)と、骨盤や腹部の筋肉が落ちて、排便時に気張る力の不足で、便の排泄が悪くなる。  また、精神の緊張(ストレス、心配、過労)やある種の薬(風邪薬によく入っているアレルギー改善の抗コリン剤や咳止め、ある種の精神薬など)の副作用でも便秘になる。

(2)便秘の種類と病的な症状
便秘は30歳までに多い「大腸通過遅延型」と高齢者に見られる「排出障害型」に分けられる。排出障害型の場合、便が軟らかくても出にくい、残便感があったり、肛門痙攣で酷い痛みがでたりする。  それでは多発性硬化症の場合、(1)に述べた、よくある便秘以外に、脳や脊髄の障害により腸の蠕動運動を司る神経系が麻痺して起こる。大脳が侵されて起こる便秘は、排便の回数が増える、排便を我慢できない、我慢していても洩らす、下剤で便は軟らかいのに排便を気張っても出にくい、出ても残便感がある、便がでたのが分からない、などである。脊髄障害(特に仙髄)が起こると、腸へ連絡する知覚神経や運動神経(腸や肛門で便が溜ったから、排便せよという命令とその結果の運動を伝える)が働かず、腸の蠕動が非常に悪くなり、排便する反射神経も働かず、強い腸麻痺になる危険がある。ほっておくと、急性のショックになり命にも関わる。呼吸筋が弱くて肺活量の少ない人はガスで充満した腹部が横隔膜を押し上げて肺を圧迫し、息が苦しくなる。この場合でも救急治療により急性期を切り抜け、多発生硬化症の病巣が治療されれば、排便の訓練などを受けてある程度回復する。排出障害が強い時や改善しないときは、消化器科で、排便の状態や大腸内の様子、動きなどについての検査を受ける必要がある。糖尿病を合併している人は糖尿病によっても腸麻痺が起こるので、より注意が必要である。

(3)治療
多発性硬化症(脳や脊髄病巣)の有無に関係なく、便秘しないように、(1)の一般論でのべた便秘にならない生活習慣をつけること、生活改善をすること。 それらを守ったのちに、病的便秘の治療がある

  1. 規則正しい生活、特に野菜や果物、芋類、キノコ、昆布など繊維の多い食べ物を20グラムほど毎日規則正しく食べる。
  2. 水分を充分とる。
  3. 毎日一定時刻にトイレに座る(10分以上座らない、きばりすぎない)
  4. ストレス、心配事、過労をさける。
  5. 骨盤底の筋群や腹筋の筋力アップの運動をする。
  6. 長く椅子に座らない。時々立って動く。

 薬による治療
  1. 酸化マグネシウムを飲む(便の浸透圧をあげて、腸から水分が吸収されにくくして便を軟らかくする。毎日でも良いが、1〜1.5グラムを越えない、腎機能低下や高マグネシウム血症には使用不可)
  2. ラクツロース(小児、産後のみ)、モニラック、ピアーレ 腸内で乳酸酢酸となり整腸
  3. ジオクチル Na スルフォサクシネート(ベンコール、ビーマス) 浸潤性緩下剤 センノシド(センナ葉エキス)、プルゼニド、ヨーデル 大腸刺激性緩下剤
  4. ピコスルファート(年齢、便秘の強さなどで量を調節)大腸刺激性
  5. これらで出にくい時は、適宜浣腸(グリセリン浣腸)を使用する。 高度の腸蠕動障害には、場合により1日〜2日毎に浣腸する。高齢者には夜間は避ける。迷走神経反射亢進による血圧低下などがありうる。 座薬としては、刺激性剤のテレミンソフトやCO2排出性のレシカルボンがあり、挿入から5〜60分で排便がある。適宜使い分ける。  

下剤(特に刺激性)を多用すると、虚血性大腸炎、腸閉塞、使用法をあやまり蠕動運動が強くなり腸穿孔などを起こす。下痢便の継続はカリウム欠乏や栄養障害、脱水を招くので注意が必要である。

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