多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)で治療法が全く違います。どちらであるかを正確に診断する事が
決定的に重要です。残念な事に、両者の鑑別を間違えていたり、区別しないでどちらともつかない間違った治療
をしていることが多いのが実情です。
次に、病気の時期、活動性の正確な評価をして、治療方針を立てることとなります。
多発性硬化症とだけ言われ、MS,NMOのいずれであるかを医師から説明されていない方、その根拠を聞いておら
れない方は、医師が間違った診断に基づき、間違った治療をしている可能性があります。
抗アクアポリン抗体陽性であればNMOと診断できます。しかし抗体陰性のNMOがかなり存在することを知らない
医師が多いのが現実です。抗体陰性だからMSであると間違って信じていて、MSと診断する医師が多いことが問題
となっています。
医師でも鑑別には経験、技術を要し、容易でないことが多いのです。
明確にMSである患者様に対し、関西MSセンターでは、既に3.5〜4年の間、多数のMS患者さんでフィンゴリモド
の治療を続けており、現在まで障害が進行した方が一人もいないという優れた実績をあげています。
また、欧米で4年以上利用されているタイサブリの国内治験に全国100人が参加しているうち、関西MSセンター
から40人が参加し、多くの実績を積んでいます。タイサブリはすでに利用されている治療のなかで最も強力に
再発と進行を抑える、月1回点滴の治療薬です。再発が殆ど無く高い有効性が示されています。後遺症を生じるよ
うな副作用も全く生じていません。
その他にも、いくつかの新薬の開発が進行しており、今後も、より効率に進行を抑制する新薬、安全性、効果と
もにひじょうに優れている新薬などの治験が計画されています。
むろん、従来のインターフェロン(ベタフェロン、アボネックス)を上手に使い、安定した状態を維持できてい
る方も多数おられます。
一方、NMOの患者様に対しても、再発が殆ど無くなり、ステロイドよりも安全で副作用の無い治療の開発に成功
し、多数の患者様が利用しておられます。
このように、各人の病型を正確に区別し、本人が自分の体質、生活様式、気質、将来計画、希望などの条件に最も
適した治療を、自分で選択できるようにすることが専門医の使命であると考えています。
新しい治療薬に関する不正確な情報、治療薬と関連が無いとおもわれる事故などを、まるで防げない副作用であ
るかのように誇張した情報があふれています。非常に多くの医師も正しい情報が不足していて、自身の経験も殆ど
ないことがしばしばです。
間違いや不正確なうわさで、過度に新薬を恐れるのは、大きな損失です。
経験ある医師が患者さんに正確な情報を提供し、正しく指導し、患者さんが一定の注意を守れば、再発進行を容易
かつ安全に抑えることが可能です。
医師の熱意、医師患者の密接な連携と協力によって、これ以上の再発・障害の進行を防止することを目指すべき
です。
現在の全てのMS・NMO治療薬は、早期に利用するほど高い効果を発揮します。この効果を期待できる時期を
"windows of opportunity" (チャンスの窓=治療効果を期待できる時期)と呼びます。早い時期に、正確で強力な
治療を安全に利用することで、将来の障害発生や障害の固定化を防げるのです。
早期の治療が重要である理由は、MSやNMOでは、一般に早期ほど炎症と免疫異常が強い事実と、現在ある全ての
治療法は炎症と免疫異常を正常化する治療法だからです。炎症があり、再発やMRIで造影病巣が出現し、炎症が
確認できる時期に、高い効果を発揮するからです。障害が進んでしまってからでは、既に炎症は盛んではなく
なっており、効果は低くなります。
多発性硬化症は自分では安定していると思っている時も、脳や脊髄のなかで活動が進行し、顕微鏡レベルの病巣の
蓄積が進行する病気です。そうした症状を出さない傷、MRIでも一見正常に見える組織のなかの神経細胞が、10年
、20年、30年後に機能低下や早死にを来たすのが、慢性進行です。このことは欧米の専門家の間ではすでに常識
ですが、日本では「専門医」と言われる先生方でも、経験不足からか、その認識に基づいた治療がされていない
ことが多いのが現実です。
残念ながら、固定化してしまった(一般には2年以上前から続いている)障害(麻痺、視力低下など)を元に戻す
治療は、未だありません。今後の再生医療の進歩に期待するしかありませんが、利用可能となるまでに15〜30年は
かかると予測されます。それまでは症状に応じ、苦しみを軽くする「対症療法」を上手に利用するしかありません 。
そうした症状や障害が出ないように、早期の予防的治療が最も重要であり、正確な知識と熱意を持った医師との
出会いが大切です。
MS,NMOの再発・増悪の早期に開始する。
血液脳関門の破綻を修復し、機能障害からの回復を早める短期効果が認められる。
経口メチルブレドニゾロンを追加することもある。こうした追加的投与にどのような効果あるいはマイナス効果が
あるかの評価は行われていない。
パルス療法が出来ない時に、次善策として行うが有効性は低い
改善が見られなくても中止する。
漫然と継続投与することの有効性は否定されており、慎むべきである。
ステロイド減量により悪化を繰り返すステロイド依存性となったり、長期に大量投与すると、倦怠・脱力を訴える
ステロイド依存症となる恐れがある。
NMOで早期なら有効性が特に高い
古典型MSでは50%弱で有効
抗体(IgG)や補体が病巣に出ている場合は常に有効といわれている。
迅速な開始が重要
治療効果はやってみないと予測は困難である。
米国での研究報告:
ステロイド・パルス療法で改善しなかった急性MSで重度の障害のある症例に対しクロスオーバーの
二重盲験試験を行い、42%(8/19)に中等度以上の急速な改善を見た(短期効果)
シャーム(偽)フェレーシスでは6%のみであった。
3種類の方法があるが、単純血漿交換での有効性が最も確立している
MSでは免疫吸着、2重膜ろ過法では明確な有効性の証拠はまだない。NMOでは免疫吸着で一定の有効性が
あると推定される
重要なのは、潜在的な病巣蓄積を抑え、長期に再発と障害進行を停止させること
治療選択には正確な病型鑑別が前提 |
多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)で治療方法が全く違います。両者の鑑別を間違えていたり、区別し
ないでどちらともつかない間違った治療をしていることが多いのが実情です。
次に、病気の時期、活動性の正確な評価をして、治療方針をたてることとなります。
2014年夏から日本でも利用が可能になった
欧米で長期間利用されている、最も有効性の高い治療薬
2010年夏で73000人以上が使用
月一回、外来で1時間点滴する
ヒト化抗インテグリン・モノクロナール抗体
効果:
効果出現は最も早く、ほとんどの方が全く再発を経験せず、障害の進行もなく、非常に有効性の高いMS治療薬
しかし、数%の方で中和抗体が出現し、半年以内に効果が無くなります。
神経組織を攻撃する炎症細胞が脳の血管に接着できず、侵入できない。
侵入したリンパ球の自殺をもたらし脳脊髄の病巣形成を抑制する
副作用:
殆ど無い、しかし
稀だが重大な副作用がある:
治療開始から1年半以上を経過すると、JCウイルス抗体価の高い人では、
進行性多巣性白質脳症(PML)という脳疾患が稀に発生します。
JCV抗体価が陰性または低い50%の人は、2年以上継続しても安全な治療が可能です。
一方、抗体価の高い50%の人では、1.5年からごくわずかなリスクが始まります。
特に抗体インデックスの高いグループでは2年以上経過すると
100人に一人程度でPMLが発生するようになります。
このため治療を1.5~2年で中断する選択をすることで副作用の可能性を回避できます。
他の治療薬では再発や副作用がある場合には、専門的MRI撮影を定期的に実施することにより、
PMLの症状が発生する前に発見することで、障害を残さない長期治療がほぼ可能ですが、
障害が残るリスクは0ではありません。
PMLで障害が残るリスクに較べて、MSの再発や進行のリスクの方が重大で可能性も高いので、
JCV抗体価が高くても治療を継続する方も少なくありません。
安全性確保の問題は、医師の診断能力、システム、熱意に依存していると言えます。
関西多発性硬化症センターでの経験:
治験に関西多発性硬化症センターから50人の患者さんが参加され(全国で110人)、
現在も多数の方が治療を継続しておられます。
後遺症の残る副作用は全く経験していません。
経口薬、1日1回、1錠を長期に服用する
効果:
有効性が高く、再発抑制率が、過去の標準薬であるインターフェロンの2倍程度
脳萎縮を6カ月後の早期から抑制していることが証明されている
2010年から欧米で利用開始し、2013年には10万人以上が利用
日本では2011年11月から使用開始し、2013年11月で2100人が利用
関西多発性硬化症センターでの経験:
2016年4月で約500人が利用している。
治験に参加し、治療を継続した35人のうち、ほとんどの方は、すでに6年〜8年以上治療を続け、
安全に通常生活を送っている。
障害度(EDSS)が進行した人はほとんど無く、障害の平均値が治療開始時の約1/2と改善が得られている。
現在ではMSの中心的治療薬である。
効果の機序:
(1)MSを悪化させるリンパ球がリンパ節から血管内へ再循環するのを抑制し、神経組織を攻撃できなくする。
リンパ球がリンパ節中に待機するので、末梢血中を循環するリンパ球数が普通の約30%にまで低下する。
しかし、抗がん剤が細胞増殖を抑え、全身のリンパ球がなくなるのと違い、感染防御に必要な種類のリンパ球
は減少しない。このため、重大な感染症の増加はほとんどない。抗がん剤と同様であると誤解している医師が
多い。
(2)神経組織に直接働いて、神経組織の障害を修復したり、障害を防止する効果が確認されている。
副作用を防ぐ対策がある:
肝機能検査値の軽度の上昇
一部(15%程度)にでるが、重大ではない。
初回投与の3-6時間後、脈拍数が少し低下する
脈拍が10程度低下するが、6時間以後徐々に元に戻る。
翌日からの服用では徐脈が再発することはない。自覚症状はほとんどない。
日頃から徐脈、不整脈のある人には注意を要するが、利用可能であることが多い。
心臓障害が起きるとの説、うわさがあるが、根拠が無い。
黄斑浮腫が200人に一人でて治療を中止するが、後遺症は殆ど無い
症状の出現は稀、出現は6ヶ月以内
眼科でのOCT検査で、無症状で発見可能
ブドウ膜炎、糖尿病のある人では、薬と関係なく黄斑浮腫が生じるので、十分な注意が必要
感染症に罹る頻度は増加しない
欧米での多数例での4年間の追跡で、増加は無かった
帯状ヘルペスに注意必要
20%の人で罹りやすくなっていることが分かっており、抗体陰性の人にはワクチンを打ってから、治療を
開始する。
有効な治療薬があるので、早期発見で早期治療を実施することが可能
日本で2015年12月から利用開始になった治療薬
欧米では20年以上前から利用されてきた。
安全性が高く、検査での異常値などもほぼでないのが特徴
効果:
インターフェロン同様に、再発が平均で30%程度減少と効果が低いのが最大の欠点。
インターフェロンとの違いは、患者による効果のばらつきが少なく、ほぼ全ての人で30%程度再発が減り、
特に良く効く人や全く効かない人が無いと言われています。
第二の欠点は毎日の自己注射であり、1ml打つのでインターフェロン以上に痛いと言われています。
インターフェロン・ベータには2種類ある(ともに遺伝子工学的に作られる)
インターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン)
糖鎖を持たないタンパクである
2日に1度、自己皮下注射
インターフェロン・ベータ1a (アボネックス)
糖鎖を持つタンパクである
週に1度、自己筋注
皮膚壊死などの副作用と中和抗体出現が少ない
効果:
非常に有効な人が30%、少し有効だが再発進行を抑えられない人40%、無効30%
全体の平均で、再発率が30%程度抑制される。
MRI造影病巣の急速な減少、MRIでの病巣面積の増加の抑制、MRI活動病巣の減少、臨床的再発回数の減少、
認知機能の悪化の抑制などが確認されている。
脳萎縮の進行の抑制などが確認されている。
投与中にも関わらず再発悪化を来たした場合:
メチルプレドニゾロン・パルス療法を追加する
効果不十分であるので、より有効な治療への切り替えが望ましい。
中和抗体と効果の消失:
治療開始1年半を経た頃から、ベタフェロン使用の10-35%の患者に出現する
その半数以上の患者では抗体価は後に低下・消失し、数年の後には陰性者が多くなる。
しかし抗体が持続するグループでは効力が失われる
アボネックスでは中和抗体出現が少ない
治療法の変更が必要となる
副作用:
大半の患者は投与を続けることが可能である。
開始当初、半数以上で3週間は発熱・倦怠感を呈する
注射局所の皮膚発赤硬化や稀に壊死を生じるなどの副作用症状も見られる。
皮膚症状による脱落の増加はベタフェロンの欠点でアボネックスではみられない。
鬱反応などの精神症状は殆ど無い
欧米で活動進行の強いMSに承認され、かつては多数が利用した
タイサブリ、ジレニアが使用可能となり、使用は稀となった
再発・障害進行やMRI病巣増加を強く抑制する
治療は期間限定で行う
抗白血病薬である
副作用:
女性(8人に一人不妊症)に注意を要する
心筋障害を心エコー検査でチェックし、注意しつつ用いる
500人に一人程度、白血病が発生し、1000人に一人が死亡
北米では2012年から使用された経口薬
効果はインターフェロンよりかなり優れている
非常に安全で皮膚疾患“乾癬”にドイツで昔から使われてきた
日本での治験が終了し、使用申請がだされた。2016年中に使用開始となる見込み。
最も有効性が高く、再発が殆ど無くなる
進行が停止し、数年の間に一定の改善をみる例が多い
白血球のCD52に対するモノクロナール抗体
1日1回、5回点滴し、1年後3回点滴し、その後5年間は治療が不要
25%で甲状腺機能亢進が生じるが、経口薬の併用で問題なく治療ができる
2013年にヨーロッパで使用が開始された
国内治験を開始する計画がある
非常に有効性高い
一次進行性多発性硬化症の進行抑制を証明した初めての薬として2015年秋に報告され大きな反響を呼んだ。
再発寛解型でも高い有効性が示された。
欧米で使用承認の申請が出され審査中。
リンパ球のB細胞CD25に対する人化モノクロナール抗体
リツキサン(リツキシバブ)の後継抗体
副作用は少ない
月1回の点滴
二次進行型MSの進行防止効果が期待される
治験終了
安全な経口免疫抑制剤と少量のステロイドを併用して治療開始
ステロイドは中止可能
再発、悪化が殆ど無くなり、副作用も無く安全である
古典型MSより確実かつ安全な再発防止が可能である
効果:プログラフ、イムランが高い
安全性:プログラフ、ブレディニンが高い
プログラフは血中濃度を測定でき、安全で有効な量を決められる
服用量
開始量 悪化、再発のあった直後は20〜30mg/日
悪化から数ヵ月経っていれば10〜15mg/日
次第に減量し、中止しても安全である
ステロイド大量パルス点滴治療 (パルス治療)MSでの使用と同様
血漿交換
NMOでは有効性高い
パルスの効果が不十分な時、再発が重い時に悪化から2週間以内に、出来るだけ早急に開始する
迅速な開始ができる病院は少ない
京都民医連中央病院は専門チームによる迅速治療が可能
2,3週の入院が必要
血漿交換でアクアポリン4抗体が除去される
歩行を改善する
欧米では5年前から、使用している
日本では治験が終了し、2017年の使用開始を目指し作業がすすめられている
中枢神経に病巣ができたために生じる色々な症状を軽減する目的で様々な薬が使われる
症状としては:
痛み、しびれ感、ツッパリ、頻尿、尿失禁、筋力低下、倦怠感、震え、精神症状など。
機能回復には、早期からの専門的リハビリの開始が大切
リハビリの仕方を学習し自由時間を使って自らが反復することが重要
新しい機器、装備の開発が進んでいる
失われた機能回復が将来可能となるだろう
iPS細胞から神経細胞を増やしMSの病巣で増やし、機能を回復する研究が始まっている
実際の利用には5年以上かかる見込みである。
(1)出来るだけ普通の社会、家庭、職業生活をする
自分を観察し、心を見つめ、反省と感謝により穏やかな心を保つこと
笑うこと、笑いのある生活を
激しいストレスは避けるほうが良い。
戦争へ行かされた兵士、突然子を失った母では再発の増加があった
普通の生活での一般的ストレスは問題ではない。
(2)自分に出来る運動を出来るだけすること
自分に合った目標を立てる
毎日、反復する
(3)感染は再発の引き金となることがあるので、出来るだけ防ぐ
手洗いをする
水でうがいをする
風邪をひいている人と接する時は、マスクをする
(4)タバコを吸わない
喫煙は再発を増加させることがある
(5)食事:
ビタミンDを摂る(サプリメントもよろしい)(過剰は有害である)
脂肪(特に動物性)とデンプンを減らし、魚、豆、野菜、全粒穀物を多く摂る
TEL 075-468-8642
FAX 075-468-8657
E-mail msnet@bg.wakwak.com