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多発性硬化症(MS)とは

 病型分類と頻度  診断のポイント  疾患の特徴
 発病の原因  MS,NMOの症状  

多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)

2000年頃までMSとされていた疾患が、MSとNMOという2つの異なる疾患に分かれることが判明しています。

MSとNMOとはどんな疾患かの簡略な説明:定義

中枢神経(脳、視神経、脊髄)のグリア細胞に対する自己免疫による攻撃、破壊が持続し、多発性の炎症性病巣を生じる慢性疾患。病巣のできる部位により、多彩な神経症状が、再発、寛解や慢性進行による障害の進行をもたらす。


病型分類と頻度

MSとNMOで攻撃の標的となる細胞がことなる
中枢神経構成細胞の中のグリア細胞を攻撃する( 下記@がMSの、AがNMOの攻撃対象=標的)

中枢神経の構成細胞とグリア細胞
     @神経固有細胞
            神経細胞(間接的にしか破壊されない)
            グリア細胞(MS、NMOでの攻撃の対象)
               @稀突起グリア細胞(オリゴデンドログリア)(MSの標的細胞)
                   突起の細胞膜が重なり髄鞘(ミエリン)を作る
               A星状グリア細胞(アストログリア)(NMOの標的細胞)
                   上衣細胞は星状グリア細胞の特殊型
     A血管や血液由来細胞
病型分類
:攻撃される標的細胞の種類が@かAかによってMSとNMOに分かれる

   多発性硬化症(MS)=脱髄(髄鞘破壊)型(髄鞘と稀突起グリア障害型)
             関西では全体の70%

            視神経、脊髄、大脳・小脳のいずれの症状もありうる
   MSの中での頻度
 (1)再発寛解型MS(RRMS)
     再発増悪の後に寛解・安定期がある
 77.1%
 (2)二次進行型MS(SPMS)
     初期に再発型であった後に持続する進行が続く
 14.3%
 (3)一次進行型MS(PPMS)
     発症時より持続的な進行を示す
 8.6%
     












                   注意 (2)、(3)の進行型でも急性増悪があることもある。
                       しかし、その後の回復期が一ヶ月以上続かず、再び慢性進行期に戻る

    視神経脊髄炎(NMO)=星状グリア(脳室上衣細胞を含む)障害型

                    NMO=Neuromyelitis Opticaの略
              
視神経、脊髄の症状が多く、脳症、小脳症状は比較的少ない


診断のポイント

多発性硬化症(MS)と視神経脊髄炎(NMO)の区別が重要。治療が異なる。
症状での区別は、通常困難である。

MS診断のポイント

      (1)、(2)、(3)全てを満足する

  1. 中枢神経に2個以上の多発性病巣を生じ、
  2. 再発や進行など疾患の慢性的活動がある
    MRIその他の検査で証明しても良い
  3. 類似の症状を呈することのある他の疾患を確実に否定する
    NMO,リンパ腫、サルコイドーシス、ベーチェット病、血管炎、膠原病、真菌感染、PML、寄生虫、
    腫瘍、血管腫、血管障害、頸椎症など、他疾患が否定できる

   腰椎穿刺・脊髄液検査の役割

      IgGオリゴクロナールバンドの出現
         MSの50%、NMOの15%で出現するが、いずれかは決定できない
      IgGインデックスの上昇はMSで多い
      髄液のリンパ球の分析
         細胞数が50以上だとMSはほぼ否定できる
         数の変動などで疾患活動性の判定が可能だが、利用しにくい



疾患の特徴

  病型が(MSかNMOか)により、治療法が大きく異なる  (治療法を参照)
多発性硬化症MS

   中枢神経の主に白質に、脱髄病変が反復あるいは慢性的に生じ、多発する
        中枢神経系(脳、脊髄、視神経)の白質(神経線維が多いところ)に主な病巣
        神経細胞のある皮質の病巣や神経線維の軸索の病巣が時間とともに増え、回復
        神経細胞とその軸索の障害が多くなると回復が難しく、障害が固定・進行する

   髄鞘が主に攻撃され破壊されている
       髄鞘とは
 希突起グリア細胞の突起が神経細胞の主要な突起である長い軸索をぐるぐると
            10-50回も取り巻き、突起の細胞膜のみが重なり合い、厚い膜を形成して
            できたもの

   脱髄病変とはどのような病変か
     脱髄病巣
=主に髄鞘(ミエリン)が破壊される、神経細胞の軸索は比較的に保たれる
           ことが多い
        小静脈周囲にTリンパ球、食細胞(マクロファージ)等の炎症細胞が浸潤
        抗体を分泌するBリンパ球の侵入もみられる
   個人差 細胞種、抗体の有無など、病変のでき方は多様で個人差がある
       抗体が沈着している病巣をもつ場合は、血漿交換治療が有効と言われている
   時期の差 初期は、血液脳関門の破綻があり、細胞、タンパクなどが血管から侵入して攻撃する
        後期は、血液脳関門の破綻がなくなるが、中枢神経を囲む軟膜にリンパ濾胞ができ、中枢神経内で
        慢性的炎症が持続するようになり、これまでMS治療に利用されている薬物が効果を発揮しにくくなる

視神経脊髄炎(NMO)/デビック病

   星状グリア細胞膜のアクアポリン-4(water channel)分子の消失が特徴
         その結果、アストログリア(星状グリア)が破壊され消失する
         アクアポリン-4分子は星状グリアの細胞突起が血管内皮細胞や脳軟膜へ接する
         部分に多く、免疫的攻撃の対象となっている
         (MSの場合の攻撃標的である髄鞘(ミエリン)・乏突起グリア細胞と異なる)
   特徴
         女性に多い(男女比=1:9)
         発症年齢が高いことが多い(平均40才)
         脊髄の中心部(灰白質)に病巣がでやすい(アクアポリン-4分子の発現が多い)
         脊髄、視神経の症状で初発が多い
         再発回数が多い
         頑固なしゃっくり、嘔吐、呼吸障害が多い
         失明、車椅子(両下肢の強い麻痺)が多い
         強い脳障害・意識障害を生じることがある
         視床下部病巣で生理不順、尿崩症など分泌障害がでることがある

 MSは戦前の日本に殆ど無かったが、近年増加し続けている

   MSは1950年頃から日本人にも出現し、現在増加しつつある
   日本では  1972年の調査では10万人に0.8〜4人だったが、最近、増加が見られる。
          2013年の北海道帯広地域での疫学調査で10万人に14人以上と増加が確認されている
          MRIの開発などの診断方法の進歩による発見率・診断率の上昇もあるが、真の増加も
          あると考えられる
   欧米白人は日本人の10〜20倍発病
          10万人に60-200人と人口あたりの有病率は日本人に比べて、遥かに高い。
          北欧、イタリア、アフリカ、イランなど、各国で近年増加しつつあることが
          報告されている。
   女性患者が全世界で増加しつつあり、最近では男女比が1:2.5

 NMOは地域差なく増加していない?

   NMOは日本、アジア人、欧米人と頻度にあまり差が無く10万人に3人程度
   疫学調査が無く、増加は確認されていない
   NMOでも女性患者が相対的に増加しつつあり、最近は男女比=1:9
   女性で増加しつつある可能性もある

発病の原因

 発病を決定するのは体質、環境、感染の3要因の組み合わせ

         
   環境因子・感染が原因の65%(欧米人のMSで)
         
子供の時代に感染や環境の影響を受け発症の可能性が固まる
          緯度 赤道近い地域では患者が少ない。
             太陽光の紫外線が免疫能を高めるビタミンDを体内でつくり
             ビタミンDが発症を抑制する可能性がある
             ビタミンDは感染に罹りにくくすることがわかっている
          感染因子 (ヘルペス属などウィルスや細菌?)が発症の引き金。
          食品では長鎖飽和脂肪酸(魚油)が発症を抑制する?
   遺伝的体質が原因の30%
          欧米人では家族内発症が約10%
          日本人では家族内発症は100人に1人程度
          白人の一卵性双生児で一人がMSの時に、もう一人の双生児もMSとなる可能性が30%
          少なくとも30個程度のMSを発症させやすくする遺伝子(疾患感受性遺伝子)の組み合わせ
          で決まる。
          家族でも全く同じ体質組み合わせは稀
          HLA(白血球組織適合性抗原)、女性ホルモンなどが知られている
          遺伝病(遺伝が決定的原因)ではない

 自己免疫疾患の一つである

   発病や再発のきっかけ
          発病しやすい体質を持つ人に、何かの感染が引き金となり、免疫のバランスが崩れて、髄鞘に
          対する自己免疫による攻撃が始まる。
          ストレスも発症を促進するが、原因ではない。
          正常では生じない自分自身の細胞の抗原物質(分子)に対する免疫(=自己免疫)
          が生じ、自己の組織に対する、間違った攻撃、破壊を仕掛ける
          自己免疫疾患には関節リュウマチ、甲状腺炎、T型糖尿病など多数の病気が含まれる
   免疫とは
          通常は侵入者であるウィルス、細菌などを排除する自己防衛の仕組み
          リンパ球が主役でT細胞とB細胞(抗体=IgG, IgM, IgA 等を分泌する)よりなるが
          他にNKT細胞、食細胞(マクロファージ)等も

 MS増加の原因
  1. 特に女性で紫外線を浴びる量が急速に減少している
    免疫能を高めるビタミンD産生が減少する
      イラン人は人種的に欧米人に近く、近年急速にMSが増加しつつある
         女性が黒いベール使用を強制されるようになったのも関連?
  2. 衛生環境の向上により小児期の感染症が減少した結果か?
      緯度が同じ韓国では、まだ日本よりMSが少ないが、近年増加しつつある
  3. 食品の変化が、腸内細菌の種類の変化を起こしているのも関連しているか?

MS,NMOの症状

人により病巣の部位がいろいろであるため、症状も個人により異なり一定しない
脳、視神経、脊髄の病巣により殆どあらゆる神経の症状がでうる。組み合わせはいろいろ。

頻度の高い症状

   感覚異常:感覚低下
        しびれ感(シビレと言う言葉は使わない)、かゆみ
        痛み、持続的な痛み
        発作的な神経痛
        NMOでは痛み、しびれ感が特に多く、強いことも多い
   筋力低下、運動麻痺:足、手、顔面。歩行困難が多い
   視力低下:白くかすむ、暗い暗点、欠損
          (眼鏡をかけ、片目をおさえ、片目ずつ調べること)
   複視(二重に見える、片目では一重に見え、視力低下ではない)
   言語障害、嚥下障害
   精神症状:物忘れ、我慢できない、思考が遅くなる、積極性がなくなるなど多彩
   排尿・排便障害:
        頻尿(我慢しにくく回数が多い)、尿失禁(もらす)
        尿閉(出せない)、出しにくい
        排便障害と同時にでることもある

特徴的症状

   レーミッテ徴候:首を前屈すると、背中を電撃様の痛みが足に向かって走る
   有痛性けいれん:時々、手足など体の一部の筋が勝手に強く収縮し、自由がきかなくなり、痛い
   ウートフ現象:体温が上昇している時(風呂、運動時、室温・気温上昇、湿度上昇などで)、過去に
          出現し回復して消えた(軽くなった)症状が、一時的に出現する

 MSは潜在的に進行するので疾患活動性評価が重要

MRIによる定期的な専門的評価

   脳では症状として自分も医師もつかめない病巣が90%以上であるので、MRIでしか病気の再発、活動状況を
   つかめないことのほうが多い
   造影MRI:血液から脳、脊髄へ漏れる場所があると、漏れ出した造影剤が写る
       現在進行中の活動病巣が見える(小型だと見えないこともある)

MRIでの変化が無い時期にも長期の治療が必要である

   病気の活動は慢性的、潜在的に進行している
   MRIで一見正常に見える脳でも、初期から、持続的に、微細な病変の進行が進んでいて、
   神経細胞の突起が切断され、回復しない障害の原因が潜在的に進行していることが証明されている
   自覚される再発やMRIでの変化があると障害進行は一層早い。

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